備前炭炎焼について


炭炎窯(たんえんがま)は先ず、焼きものを焼く主燃料を"炭"に決めました。その主燃料で焼成するには一番難しい土で焼きものを造る。この発想がスタートです。そして選んだ土が備前の土でした。備前の土は素晴らしい土ですが、焼成時の昇温をゆっくりとそして焼成温度が安定しないと歪んだり傷が出たり割れたりします。炭から出る不安定な熱カロリー(一度に大量の炭を着火する訳では無い為)をコントロールしながら備前の土を焼き上げていくのはとても難しいのです。反射熱と蓄熱をどうやってバランスを取るのか。(反射熱が多ければ早く焼き上がりますが備前の土に適しません。蓄熱が多ければ燃料の炭が大量に必要です)そして、作家自ら約10年かけて焼成実験と窯の設計、築窯そして窯焚を成功させたのが炭炎窯です。炭の炎で焼く窯それが炭炎窯です。

炭炎窯は既製品窯を使った炭化焼成(サヤ鉢に作品と炭を入れて焼く焼成方法)と最近大学や他所の陶芸家に揶揄されていますが違います。炭炎窯は既製品窯を使用した炭化焼成ではありません。薪の代わりに炭を使用して窯焚する窯です。勿論、主燃料に灯油、ガス、電気を使用しておりません。主燃料に炭を用いて薪窯のように作品を焼いています。(ただし、構造上窯が小さいので一度の窯焚で100点前後しか焼けません)炭炎窯の窯焚時間は最低24時間になります。(緋襷を取る為に最低この時間が必要です)外気温及び湿度などの違いで30時間以上かかる時もありますが薪窯よりも早く焼き上がります。炭炎窯で使用する炭は数種類の炭を使い分け一回の窯焚で使用する炭の量は100kg以上にもなります。


炭炎窯は主燃料に炭を使用して焼成するので既存の備前焼と焼成が違います。よって備前焼では無く備前炭炎焼(びぜんたんえんやき)と言う名称にしております。既存の焼き方(薪、灯油、ガス、電気)ですと備前焼=赤褐色(茶色)の焼き肌の焼き物として広く知られていますが、炭炎窯は炭で長い時間焼き続ける焼成による炭素作用で他に無い焼き色に仕上げております。(炭炎窯は還元焼成です)

備前の土は焼き方で千変万化しますが備前焼の代表的な焼き肌の一つで、薪の灰が熔けて溶着した焼き肌を胡麻と言います。現代の備前焼は黄胡麻(熔けて付着した薪灰が黄色く見えることから)が支流になっています。備前炭炎焼は窯変を追求する窯焚ですので胡麻でも白胡麻、緑胡麻、青胡麻、黒胡麻等が窯から出てきます。無論、釉薬等は使用しておりません。普通の備前焼と同じく無釉焼締です。

備前炭炎焼は素焼きせずに窯に入れて焼いただけのものです。良質な陶土を焼き締める。窯焚は土と炎の出会いです。その融合によって生み出される素朴な手づくりの温もりが感じられる焼き物が備前炭炎焼なのです。


炭炎窯で使用する備前の土は岡山県から数種類取り寄せて炭炎窯の焼成に合わせて自分で土合わせをしております。土同しが持つ土の持味を機械で均一に合わせず、曖昧さを残す様心がけながら手作業で合わせております。その土味を生かし炭炎窯で焼成し、作意によって生み出された、なんの飾り気もない枯淡で素朴な味が侘(わび)寂(さび)の境地に相通ずるものがあると思っております。備前炭炎焼は土味と形、自然と生じる焼きムラなどを楽しむ焼き物です。そのため釉薬陶や絵付けなどと違い、緋襷(ヒダスキ)や牡丹餅(ボタモチ)などの間接的な技法を使用し、また、燃焼温度などを工夫することにより千差万別の作品を造っております。


作品は大型の手回しろくろ(直径50cmのオール鉄製)で作陶しています。ろくろぼせ(ろくろを廻す棒)をろくろ天板の穴に入れ、ゆっくり回る力で土の持つ味わいを残す作陶を心がけています。造る作品に合わせてひとつひとつ土玉を作りろくろ挽きする一個挽き(玉作り)です。古備前(桃山備前)と同じく、土に逆らわず土に素直に。電動ろくろでは決して出来ない暖かみのある作陶です。素朴、土味、手づくりの温もりなど、現代に欠けているものを求め、生活のうるおい、心のよりどころとして愛用し、使われて初めて色つやが変化し、より味わい深い焼き物となります。これを、器を育てると言いますが、飾るよりもお使い頂いて初めて価値がわかる焼き物が備前炭炎焼です。


備前炭炎焼は水を腐らせずお酒やお茶、珈琲をまろやかにしてくれる効果があります。これは、備前の土は焼き上げても目に見えない隙間があります。水は通りませんが酸素は通ります。水漏れせずに器が呼吸をしているのです。これにより備前炭炎焼は水を腐らせずお酒やお茶、珈琲がまろやかになりお花が長持ちするのです。また、果物を甘く熟成する作用もあります。最近研究されて解ってきましたが、一番の要因は備前の土に含まれる鉄分が大きく作用していると言うことです。備前の土は鉄分を多く含んでいます。また、その鉄分もお酒やお茶、珈琲もまろやかにしてくれます。備前の土の鉄分は焼き上げてもその効果と作用は無くなりません。そして、備前炭炎焼は長時間かけて炭で焼成しますので、炭素成分が大量に吸着しております。水道水やペットボトルのお茶を使用して、その他の器と備前炭炎焼の器で飲み比べて頂くとその場で味の違いがわかります。

日本酒で二日酔いする方が備前炭炎焼のぐい呑で呑むと二日酔いしなかったと言う事例もございます。



代表作 三角ぐい呑(沓酒呑)について


三角ぐい呑(沓酒呑)は、備前焼初代人間国宝 故 金重陶陽の直弟子 故 西川政美と自分だけが造っています。三か所の口の何処からでも呑める遊び心のある酒呑です。ろくろで引き上げているので、"指で掴む"と言うよりも"指の中に納まる"持ちやすいぐい呑になっています。是非、手に取って観て下さい。